20歳の頃から中国料理の世界に身を置きもう50年が経つ。
料理が好きだったわけでもなかったのに実に半世紀。
中国料理の職人だった期間はほぼ17年。ホールの接客にコンバートされ店長として10年。そのお店がなくなったことがきっかけで独立を目ざして準備期間が3年。この地域で独立開業して20年。大雑把だがこんな感じになる。

職人だった時代、ある程度の技術が備わった時期から、師匠と呼ぶ方がいて、その方の指示のもといろいろなお店に関わった。
中華料理の世界だけなのかも知れないが、中華食材はほぼ必ずと行っても良いくらい加熱消毒を行ってから調理に入る。
筍など、どのお店でも竹皮をむいた状態のモノが缶詰として入荷されていた。それを一回ボイルした上でスライスしたり細切りにして使用していた。最近ではスライスしたものや細切りした筍が入荷しているのだが、加熱消毒は必ず行う。缶詰に限らず真空パックした素材や冷凍物も産地が中国産と書いてあれば必ず熱消毒する。50年ほど昔からそういう風にするモノだと教わってきた。

数年前に社員旅行で香港に行ったことがある。二泊三日の短い期間ではあったが、本場の料理は行く前から楽しみだったし勉強になるとワクワクしていた。
行って胃袋の許す限りあちこちのお店をまわった。連れて行った社員も同様だったと思う。
どのお店も美味しかったし、驚きもあったし、初めて味わうモノもたくさんあった。勉強になった。
ただ気になったことが一つ。テーブルにつくと必ずお湯が提供された。どのお店に行ってもだ。最初は意味がわからなかった。
香港で同行してくれた方が居た。日本人女性と結婚した香港人だ。日本にも長く滞在しており日本の大手証券会社の社員でもあった。
その方に聞いた。
箸やスプーン、場合によっては取り皿までもお湯をくぐらせて熱消毒をするんだそうだ。
えっ?
香港のお店のホールスタッフはそのお湯を臆面もなく持ってくる。いわばカトラリー(食卓で使用する箸、ナイフ、フォークなど)は汚れているので洗ってくださいとでも伝えているようだ。中国ではごく日常なのだと教えてくれた。

遠慮なく言わせてもらえば、中国人が 同じ同胞の中国人を、仕事を信じてないのだ。見た目や利益が優先し、品質は後回しになるのを知っているのだ。

そういえば中国料理で有名な上海カニ。季節は9月~11月にかけて出回る。上海カニの蒸し料理は大丈夫だが、生きた上海カニを紹興酒につけた「酔っぱらい蟹」はお薦めできない。養殖する湖は汚染度がひどいと聞く。その上海蟹を売りつけに来る輸入業者(中国人及び中国商社)の売り文句がすごい。
「去年の品質検査は18項目でしたが、今年は22品目の検査をしています。だから去年より少し高くなりました。」
と、したり顔で話す。
(馬鹿言ってるんじゃないぞ。日本の蟹は検査しなくたってそのまんま食べられるぞ。何を威張って値段をつり上げるんだ!)
と、私の心の中。
ただでさえ(?)高い上海蟹、ここ数年、歓では上海蟹をメニューとして出してない。

中国と日本では衛生観念が根本的に違う。
50年ほど中華料理に勤しんできたが、この点だけはなじめなかった。