朝方9時電話が鳴る。
「はい、歓[fun]でございます」
「チマキをお願いしたいのですが・・・」
阿部寛のマネージャーのお一人からだった。
「いつでしょう?」
「今日のお昼なんですが・・・」
「えっ、今日!」
「やっぱり難しいですよね」
場所と時間と個数を聞く。
11時着、両国の劇場に40個だった。
厨房はまだ誰も来ていない。
冷凍庫の在庫を確かめる。
可能だ。
「お待たせしてスミマセン。大丈夫だろうと思いますが、在庫を管理している厨房に聞いてみないと確約をしかねます。あと30分ほど待っていただけますか?」
そうして
「両国まで新宿から30分見ていますが、こちらのランチ営業が11時からです。営業に間に合わせるためには両国着を10時20分(30分早める)ほどにしたいのですが、それは大丈夫ですか」
「かまいません」
「返事は後ほどします。しばらくお待ちください。」
スチームコンベクション(蒸籠)のスイッチを入れながら、調理長に電話を入れる。
昨夜の内に余分な在庫として発注してあるから「大丈夫!」との確認が取れた。
阿部さんの事務所にOKの電話を入れた。
「50個にするのは可能ですか?」
すでにチマキをスチームコンベクションに入れて10分が過ぎている。
「いやぁ、ちょっと・・・」
電話で話ながらも、ホールの掃除をこなす。
「わかりました。40個でお願いします。」やがて厨房が出勤してくる。そしてチマキが仕上がり発泡スチロールに詰め込む。
この時点で10時5分前。
のし紙「楽屋お見舞い・二反田雅澄さまへ・阿部寛」をプリントアウト。
折しもスコールのような豪雨。
カッパを羽織り、バイクにチマキを詰め込む。雨の一番ひどい時の配達だった。
ワイパーを回しっぱなしでも前が見えにくい。
バイクはどうしても道路の左寄りを走るのだが、左寄りには水溜まりも多い。
豪雨も手伝い、その水たまりが見えない。
急ブレーキがかかる如く、身体が前につんのめる。
水しぶきを左右に分けてバイクは進む。
新宿から両国まで靖国通り1本なのだが、カッパを通しても雨水が浸みてくる。
ランチに間に合わせるためには、この程度は何のその!
ほぼ25分で両国2丁目到着。お目当ての両国シアターX(カイ)だ。阿部寛さんと鶴瓶さんは、定期的に、それも大量にチマキの注文を入れて貰える。
この程度の雨や、この程度の無理は何とかする。
だから無理とわかってはいても、
「今日の今日なんですが、チマキ配達できますかね・・・」
とくる。
お得意様っていうのは、こういう無理を言えるし、無理に応えることも全力を尽くす。
ありがとうございます。
でも無理はあまり頻繁にしないでくださいな。気持ちはOKでも、物理的に無理な場合が多々あります。
2016年 8月 の投稿一覧
検査入院4(病院食)
検査入院3(ピーピッピッ)
午前十時頃。
窓の外からピーピッピッと笛の音が聞こえてきた。
(えっ!この笛のリズムは、もしかしたら祭りの・・・?)
昨日入院したのだが、たった一日で曜日の感覚がなくなっている。
確か今日は日曜日だ。
祭り!あり得る!
祭り好きの血がとたんに騒ぐ。
当たり前だ。こんなに元気なのに寝てなきゃならないなんて!
腕から伸びる「点滴の管」が憎らしい!
看護婦が来て、のんびりとした口調で
「お祭りのようですね。」
言下に
「違う!この時間帯だから子供神輿です。」
「大人の、本物は午後から出ます。」
入院する病院の近所には、神酒所を二カ所ほど確認していた。
お祭りが今日だとは知らなかったが、日曜日とあればそれも納得。
わー、行きたい、担ぎたーい・・・・
ソワソワする私を冷ややかな目の看護婦さん。
病院の方たちはどなたか参加しないんですか?
ますます冷ややかな目で私を見る。
「ほら」と点滴の下げている
検査入院2 (チマキ注文の巻き)
入院初日は病院のいろいろな部署から挨拶にやってくる。
薬の説明をされる方がやってきた。薬剤師だ。
現在服用している薬の中でストップする薬、その説明などなど。以前に聞いていたことをさほど変わらず。
「ふむふむ、あー、そうですか」
相づちとともに聞き流す。その最中にサイドテーブルがブルルと振動した。
携帯の呼び出しだ。ディスプレイを覗くと「音無美紀子」さんの表示。
一瞬でチマキ配達の注文と知れる。
説明を続ける薬剤師の方を手で制し、画面を見せながら、電話に出ますと伝える。たぶん
(なんてわがままな患者だ。ベッドで電話は禁止だろ、常識的に!)
と思われたかどうか、一礼の後カーテンの向こうに去って行かれた。
「はい、こんにちは」
「今日の明日で申し訳ないんですけど、明日チマキ配達できますか?」
素直に入院という言葉が出て来ない。それを察したか
「無理ですよねぇ。」
仕方ない。
「音無さん、実を言うと今日から入院なんです。」
「えっ?」
「点滴を引っ張って、行けないことはないんですが」
「チマキ揃えるのも・・・」
「検査入院ですか?」
「そうです。14日には退院です。その後でしたら・・・・」
「わかりました。お大事にしください。点滴引っ張る必要ありませんから。」
そりゃそうだ。そんなことするのは”志村けん”や”加藤茶”の世界だ。
入院初日から、波乱の予測。退屈はしのげそうだわい。
検査入院1
前立腺に少し異常があると言うことで、入院が決まった。
検査入院だ。手術の翌日には退院ということで、比較的軽い手術、あるいは軽い症状と言うことらしい。
ただし現在服用している薬の効果が手術には邪魔らしく、その効果が消える1週間は点滴が不可欠と言うことで9日間の入院になってしまった。
(こりゃ、たいへんだぞ。すこぶる元気状態で入院したら、時間つぶしと体力維持が。)
そして本日入院。
お店のお客様には「夏期休暇」
検査入院ぐらいで公言できるか、というのが本音です。
さあ、どうやったら入院生活が退屈しないか、ということで入院生活を綴ってみようかな。
そういうなか早速点滴のチューブをつけに、看護婦さんがやってきた。
――――――――――――――――――――――――――――――
看護婦が点滴の針を刺そうとする。しきりに二の腕の表をさすり、血管の浮き出ている部分を捜している。
ん?
ん?
見つからない。
手伝うつもりで私も腕に力を入れる。親指を中に入れた拳に力を入れる。
それでも
ん?
ん?
「針、入れちゃえば」
「大丈夫大丈夫。痛いのを数回我慢すればいいんでしょ。」
「平気平気、ブスッと突き刺して」
とこちらが看護婦さんをあおる。
けっこう年季の入った看護婦さんに見える。それでもプレッシャーを感じたようで、突き刺した針から血が出てこない。
正直(痛い・・・)
ぐっとここは我慢。看護婦さんを育てるつもりで。
看護婦さん、懸命に針の先をグリグリしながら血管を探している。
看護婦さんの懸命さがわかるだけに、グッとこちらも堪える・・・が、
グリグリの度に
「うっ、うう、」
とうめき声を止められない。
看護婦さん、申し訳なさそうに
「スミマセン、スミマセン」
結果的に交換した針は3本。
「腕が筋肉質で・・・なかなか針が血管に届かなくて・・・」
「ドンマイ、ドンマイ」
でも、ちょっとだけ、心の中で
(ヘタ!)