レジ前に小さな猿の置物がある。
親指大の置物だ。
誰が置いたか知らない。
たぶんお礼を言っているお猿だ。
掌をそれぞれの場所に置く「見ざる聞かざる言わざる」は知っているが、お礼をしている猿は知らない。
両手をついて丁寧にお礼を言っている様だが、私には平謝りに謝っている猿に見える。この猿、なぜか私にとって同類に感じる。
齢、今年68歳になる。
どんなに若作りをしても身体の衰えは隠せない。
顕著に出てくるのが、頭だ。
禿や白髪ではない。
中身が、頭の中身が老化・・・というより衰退しているような・・・
玄関先に、ほとんど毎朝、妻がまとめていたゴミが置いてある。
目に入っているはずなのに、スルーしている。
「どうして目に入らないの!」
家で食事を取る。魚だとか鶏だとかの骨を近くにあったゴミ箱に入れる。
「駄目ぇ。骨用のお皿を置いてあるでしょう。そこに入れて。後でまとめて生ゴミで出すから。」
お店で。
コンビニで100円コーヒーを買って来て、パソコン前に座って飲む。
お店の相棒の女性から、取っ手のついたグラスお茶を目の前に”トン”と置かれて
「ここに置いてあるお茶は誰のですか!」
「伝票がないんですけど、アスクルに頼んで貰えましたか?」
えっ?
「言ったじゃないですか。残り少ないから頼んでくださいねって。」
その都度、謝る。謝るふりをする。
その回数、増えた。
些細なことで、些細なミスが多くなってきた。
私の中では軽微なのだが、数が多くなると、軽微さに重さが加わり「軽」でなくなる。
この猿、なんか親しみが湧く。
私の代わりに頭を下げてくれている。
身体を小さくして・・・・・。
些細なミスで、些細な謝罪が、身体まで些細にしてくれる。
そして両手をついて謝ってくれる。
謝らさせてくれるから、謝猿。
私の分身だ。