厨房に隠ること半年。
ほぼ30年ぶりの厨房勤務。体力勝負の調理業務に身体が慣れるまで2ヶ月。身体にはけっこうハードだった様で、この二ヶ月で4kgは痩せた。それから冷蔵庫冷凍庫の中身や食材管理が身体に染みつくまでさらに1ヶ月。それでも身体で覚えていた技術は、 年齢的に動かなくなった身体のことを考慮しても たぶん80%は戻ってきたと思う。30年という歳月が経ったにもかかわらず、調理の応用が利く様になった。私生活で問題のあった前勤務先の調理長だったが、調理技術はずばぬけていた。あらためてこの方に教わったことを感謝。
歓には歴代調理長は全部で四人いた。一人を除いてそれぞれ素晴らしい技術を要していた。その調理長たちは私のいろいろな要求によく応えてくれて調理長の業務をこなしてくれた。
が、ひとつだけ、原価率が高かった。ヒドい時には40%近くの原価率になっていた。それぞれコストを抑えるための努力をしていたのだろうが、お客様の満足度との兼ね合い、難しかったのだろう。
私が厨房に入り、身体が慣れ始めるに伴い原価率を改善したいと考えた。
平日毎日北新宿のビル内にあるコンビニに弁当を納品している。その帰り道業務専門の食材店があり、ほぼ毎日その店舗に寄っていく。
野菜や食肉を見ながら、当日宴会の料理を考案する。食材を見て料理が思いつく。買って帰ると同食材の、仕入れ業者の納品する同製品と価格比較を自然とするようになった。
業者に対して、「これは高い。もっと安くならないか。」
という交渉も普通に話せる様になった。
築地や市場とは言わないが、市場価格に敏感になった。それと市場に出回る季節食材にも目が行く様になった。
頭の中で分かっていることと、実際に肌感覚で分かることには、けっこうな解離がある。
毎日行く買い出しでおこったメリットだ。
35%ほどあった原価率は、今は30%ほどになった。だが、ここからの1%はかなり厳しい。いろいろと工夫をするが、ややもすると31~33%に逆戻りする。
買い出しで入手できない食材にフカヒレがある。
姿煮で提供する形あるものだ。
値上がった。7月からだという。素ムキと呼ばれる乾燥品を何度も煮込みある程度柔らかくなった冷凍ものだ。
大きさによって価格は変わる。大きいほど値は高い。
お客様の要望に応え5000円コースにフカヒレの姿煮を、歓は入れている。
7月から値上がるフカヒレ1枚の原価は1200円。
5000円コースの一人前の原価が30%だとして1500円。そのなかから1500円を引くと残り300円。うーん!コースを組める金額ではない。
はてさてどうしよう。
コース料理の値段を上げるか、姿煮は出さずにコースを組むか。
お客様の悲哀こもごもの顔が目に浮かぶ・・・・。