弟がいる

私は男ばかりの三人兄弟の長男だ。
兄弟は2歳ずつ年が離れている。
私と三番目が東京に住んでいる。
2歳ずつ離れているから、三番目とは4歳差がある。
物書きを生業としている弟だ。メインは週刊誌の記事を書いているのだが、三冊ほど上梓したこともある。年齢的に学校でいっしょにはやれなかったが、兄弟そろってサッカーをやっていた。二人ともサッカー好きだった。
単身赴任が続いた私は、自分の息子には一週間に一度帰った折に近所の学校の校庭でいっしょにサッカーボールを追いかけて思いでしたかないが、弟はその息子のサッカーチームのコーチを仕事片手間にやっていた。話しを聞く限り熱血コーチだったようだ。

久しぶりにその弟が来た。
久しぶりの弟は顔色が悪かった。ガンを患い闘病生活を今も送っている。
兄弟ゆえに遠慮はない。
「おい、顔色悪いなぁ!」
「そう?抗がん剤のせいだと思う。でも一頃よりはずいぶん楽になったんだよ。」

私も数年前に前立腺ガンを患ったが、全摘し今は完治している。入院を数回、身体を切ったのが数回、そのたびに身体の衰えは加速する。
そんな私だが、今の弟より顔色も見た目も健康そうには見える。この歳になってくると加齢や高齢との戦いになる。逆に言えばいつお迎えが来てもおかしくない年になってきた。
だが、四歳下の弟に私より先に逝っては困る。何が困るか知らないが、とにかくダメだ。

術後や健康状態を聞く。最悪状態は回避したようだ。今はその養生途中のようだ。ホッとする。
あらためて弟の顔を見る。
黒い。禿げている。残っている毛も白いのばかり。タバコのせいで入れ歯を装着しているのだが、その入れ歯が顔の割合からして大きい。このことは以前から「歯を替えろ。見た目は大切だぞ。」と忠告したことがあったのだが、その入れ歯が支えている歯茎から落ちそうにズレている。顔がコケているのだ。
人のことは偉そうに言えないが、弟も見た目を気にするタイプではない。私の言うことは歯牙にもかけない。

そして、久しぶりの兄弟談義に時々弟は席を外す。店外に設置してある灰皿の元、タバコを吸いに行くのだ。
私の妻が、「電子タバコにすれば・・」と言うも、鼻でせせら笑う。弟が初めてタバコを吸い始めたのは中学の終わり頃だったと思うが、以来タバコの銘柄は一貫して「ハイライト」

「もうタバコは・・・」
言ってもダメだし、たぶんタバコを止めることに堪えられなり、結果人生を縮めそうだ。言葉を呑んだ。

でもでも長生きしろよ。少なくともオレより先に逝くなよ。