フラメンコダンサー

昨夜閉店時間を過ぎてからある女性が来た。
長嶺ヤス子さん。
まだ現役のフラメンコダンサーだ。ただ旬はとうに過ぎている。88歳。
YouTubeでもウィキペディアでもすぐに見つけることが出来るくらい著名なダンサーだ。
さすがに容姿は年齢を隠せないが、88歳とは思わせないくらい元気だ。
年に数回、福島猪苗代湖の実家から公演のために東京に出てくる。
つい最近舞台を見に行った。
スペイン人の男性ダンサーと踊るのだが、ステップは少ない。
なぜここまでして踊るのか、と思うが、彼女のフラメンコに対する情熱はすごい!ダンスを通して自分に対しての厳しさをとことん追求している。
この方の前では、私が自分に対しての甘さを思い知る、というより突き詰められる。
また女性としての一面を彼女は前面に出す。
フラメンコでの、女性を表現するのに、いくつになっても「女性」が必要なんだと思う。枯れてないのだ。

お店は閉店し、火を落としていたために、彼女を誘って二人で近所のイタリアンに飲みに行った。
「このお店は私が一番落ち着けるお店です。そして美味しいです。」
ヤス子ちゃん(こんな呼び名が好きなようで、私もそう呼ばさせて貰っている。)も気に入ってくれたようで、カウンターに並んで座り
「私と飲むの、初めてだわね。楽しい?」
としなを作る。
二人でワインを傾け、乾杯。
やがて料理がでて来て食事が始まる。あまり食べられない、と言うが、このお年にしては食欲旺盛だ。あれだけ動き回る仕事柄、女性とはいえ筋力は必要なのだろう。そういえば背筋もピンとしている。
以前私のお店で食事をされた折、酔った勢いでヤス子ちゃんの胸に私の手を引っ張る。触らせる。
ビックリしたのと、他の方の手前、あわてて手を引いたのだが、おっぱいは豊満だった。

イタリアンでの楽しい時間はあっという間に過ぎる。
このイタリアンも閉店が近づく。
来る前から雨が降っていたのだが、傘をさし彼女の滞在先のホテルまで送っていく。自然とヤス子ちゃんは私に腕を絡ませてくる。欲するがままにしていたが、ロマンチックではなく、介護・・・と言っちゃヤス子ちゃんに失礼か。

ヤス子ちゃんを送り届け、ホテルにきびすを返すと、安堵のため息がホーッと。
ため息は白い色に変わって、冷たい小雨の中に 消えていく。
少しは気を遣っていたようだ。