ブログを見返していたら「新調理人」というタイトルがちょっと前に上げてあった。だからというわけではないが、その後をアップしよう。
結果を話せば、辞めた。ほぼ二ヶ月間だった。辞めて、もう十日ほど経つ。
十月末に商店会の一大イベント「医大通り音楽フェスティバル」があった。
彼、新調理人が来てくれて、商店会長として動けた。それまで申し訳ないくらい滞っていた活動をいっきに進めることができた。
この点は感謝。というか、このために彼は来てくれたのかと思う。
彼は現在進行形で、有名な調理学校の講師も務めていた。そのためもあって料理のバリエーションは豊富だった。エネルギッシュでもあった。やる気を前面に出していた。
ただその「やる気」が過ぎた。当初からその点は心配だった。だから
「急ぐなよ。あせるなよ。でないと、気がつけば、後ろを振り向けば、誰もついてきてない、という事になるよ。」
まさにその通りになってしまった。
やる気と元気が空回りしてしまったのだ。
周りが、他の従業員が、彼を遠巻きにし始めていた。
私の片腕でもあったホールの女性は、
「私はあの人をお客様に紹介できない。」
「あの人が出るミーティングは、私は欠席します。」
と言い切る。
数少ない従業員のなかで彼は孤立していった。
「オレ、接客も得意ですよ。」
とも言っていた彼だったが、厨房からホールに呼ばれる回数は激減する。
良いところはたくさん持っていた。
彼は喫煙者だったが、厨房での喫煙は絶対しなかった。
砂糖や醤油などの調味料は毎日入れ替えていた。
あとは・・・
あとは・・・
良いところは多々あったのだが、それを全て打ち消すくらい”圧”が強かった。
自分が全てだったのだ。彼にとって周りが馬鹿に見えていたのだと思う。
師走忘年会シーズンを前にして、この体制で乗り切ろうと考えていた。
だから片腕と思っている女性には、その旨を話し”ガマン”をお願いした。
なのに、ガマンをお願いした私が彼女に
「けどね、もし、彼の方から”辞めたい”と言われたときには、止めないよ。」
と支離滅裂なことを伝える。
「そんなことになったら、また厨房の仕事が増えて社長の負担が大きくなりますよ。」
「大丈夫だ。彼が来る前に戻るだけのことだから。心配するな。覚悟は決めている。」
それでも、これから訪れる忘年会の繁忙を乗り切るために力を合わせようと、みんなが気持ちを切り替えていた。
「おれ、辞めてもいいですか?」
「いつ、辞めればいいですか?」
7日の木曜日に調理人から言われた。
(はぁ?)
自分の気持ちは殺した。
顔に出る感情も殺した。そして
「今週いっぱい、土曜日まででいい。」
彼もこんな早い日時は想定してなかったようだった。
お店が終わり、彼が帰った後、残った彼女に話した。
「ごめんね。あなたに負担がかかるけど、いっしょに頑張ろうか。」
彼が残していったもの。
使い切れない在庫。
使い方のわからない調味料。
でも、ストレスから解放される利点のほうが大きかった。
かって私も職人だったけど、どうしても小さなお山の大将になりがちで、大きな山が見えにくい。俯瞰した見方ができない。職人は一つのことには大きな力を発揮するけど、全体が見えにくいから、自分中心な発言が強くなりがち。例外はあるとしても、だいたいにおいて職人はチームリーダーに不向きが多い。
飲食店は、ある程度大きくなると職人を抱えざる得なくなる。飲食店の経営者は職人の使い道を覚える必要がある。だけど天の邪鬼を通り越して、ひねくれた存在になると手をつけられなくなる。
立場をわきまえた、あるいは自分の力量をわきまえた職人だったらまだ使いようがあるのだが、お山の大将になった職人は始末が悪い。そして自分しか作れないと言う技術を盾にとって、会社を脅したりもする。おそらくその自覚もないのだろうが。
せっかくあれだけの料理を作れるのに。もったいないと切実に思う。
でも一人仕事なのだ。一人仕事を自ら作っているのだ。
でも彼は、
(オレのことを見てくれない、理解してくれない、興味を持ってくれない。)
と受け止めているんだろうな、きっと。