光輝の卒業

 仕事場で二人の息子がいる。実の息子ではない。16歳、中卒で私のお店で働き始めた男の子の二人だ。
その二人とも4年間勤め上げ、一人は新しい就職先に4月から赴任する。この子は新宿店勤務だった。光輝という。
当初は全く使い物にならなかった。言われたことが右の耳から左の耳に通り抜けていた。みんなから冗談で、
「お前は3歩あるくと言われたこと忘れるからな。」
とからかわれていた。
その光輝、この一年は見違えるように仕事ができる男になっていた。繁忙期に時々手伝う社長の私に指図すらする。

仕事が見えるようになってきた証拠だ。よく頑張ってきた。
お店には二人女性が働いている。この二人が光輝を育て上げてくれた。

口うるさく、怒りながら、時に突き放しながら。光輝はよくこの二人について行ったし、この二人も諦めることなく光輝を育て上げてくれた。
その光輝が卒業だ。4月から新しい職場での就職が決まった。
調理にも興味を持っていたために、このままお店に居つくかと思っていたが。
でもここは彼の出帆を祝ってあげよう。
他の海で荒波に揉まれて力をつけて帰ってくることを期待しよう。彼が戻ってこれる職場を守り、帰りやすい、仕事のしがいのある会社に仕立てよう。

光輝、頑張って。オレも頑張るからな。