眼上の敵

墨汁を垂らし。
墨汁を散らし。
芸術的にも幾何学模様の墨絵が目の前に広がる。

あ 何だ  見にくい。
眼に、眼の前の景色に冒頭の墨汁模様が広がる。
墨汁の線は細い。細いが視線を動かすたびに墨汁模様も眼球の上を動き回る。

ちょっとちょっと・・・
これじゃ見えないよ・・・

10年以上前に煩った緑内障を思い出す。
あの時は眼球に円状の黒い膜が広がり、正面だけが見えなかった。
当時板橋区に居を構え、新宿まで自転車通勤をしていた頃だった。
正面の信号機が見えない。周りは見えるのに、1センチか2センチの黒い丸が真正面の視界を塞ぐ。焦った。
あわてて眼科に行った。
緑内障と判断された。
眼球にレーザーを照射され、目がチリチリと焼ける。
めちゃくちゃ痛かった。
が、手術の間はまばたきが出来ないようにまぶたを固定され、それがまた痛く、涙ボロボロで手術を受けた。

それを思い出した。
今回はそれよりも弱く、冒頭に書いた墨汁を散らした感じなのだ。
が、これじゃ危なくってバイクに乗れない。

急遽知り合いの眼科に予約を入れ、走った。
1時間ほどの診察の結果、眼球に二個所の亀裂があり、そこから血が滲んでいるとのこと。自分のことなのだが、聞くだけで痛々しい。(実際は痛みはない。)

その先生が大きな病院の予約を入れてくれた。
目の中のコーキング手術だ。
これから行く。
コロナでまだランチのお客様は戻ってこない。
なんとか私抜きでも稼働するだろう。
今は、バイクを乗り回せる視力を戻すことが先決だ。


前述の眼科の先生に聞いた。
どういう手術になりますか。
「手術は亀裂の入った部分を、何らかの物質で埋め、コーキングします。」
原因は何ですか。
「老化です。」
との簡単な返事が速効で戻ってきた。
どれくらいで直りますか?
「1ヶ月ほど見た方が良いですね。」

こうやって、この文章を打ち込むのも、ほぼ左目だけで判読しながら打ち込んでいる。この左目も強度の乱視なのだ。パソコン画面に顔を寄せつつ、左右に顔をふりふり、視線と同時に動く黒影の合間に見える字を追い判断している。

芸術の秋。めっちゃ、疲れる。