金魚鉢から見える雨

術後の眼では雨は確認できない。が、11階の病棟から見える、ビルの屋上のしっとりとしたコンクリート色と、駒のように見える眼下の傘は秋の雨を教えてくれる。

眼帯を押さえるテープが剥がれかけ、その隙間からガラス越しの、雨の高層ビル街が飛び込んでくる。
最初は左眼から見える景色と感じていた。
眼上に波打つ白い線が揺れている。

はて?

ここで気がついた。
右眼から見える景色なのだ。
あらためて右眼だけで確認する。

景色の上部に、確かに波打っている線がある。
眼の中に水が入り、その水が揺れているのだ。
これまでの主治医の説明と合致がいく。眼球の中に入れたのはガス(気体)であり、それが一週間ほどかけて、眼球の中にある本来の液体と入れ替わるそうだ。その入れ替わり始めた状態なのだろう。
なぜ、波線が上部にあるのかわからないが、眼球が水の中に浮いている気分だ。
観察していると、波線は動いてない。視線を移動させるごとに動くため波打つように見えるのだ。
目の前に水を張った金魚鉢を置き、その金魚鉢を通した景色に見える。

実にまか不思議な景色だし、初めての体験だ。

退院は予定通り10日土曜日と教わる。