鳥せん

おそらく創業40年は続いていた焼き鳥屋さん。歓のとなりにある。
ご夫婦で営んでいたお店だ。

私が新宿で美味しいと思っている焼き鳥屋さんは2軒ある。
しばらくお邪魔してないが、三丁目にある「鳥田村」。そしてこの「鳥せん」

串に刺してある鳥は大きめだ。
鶏肉にこだわっている。炭は備長炭にこだわる。他の、例えば銀杏なども仕入れ先は変えない。
こだわりの大きいお店だ。
そしえ何より店主。店主と言うより「頑固親父」という言葉がピッタリくる店主であり奥さんだった。
気に食わないお客様は遠慮無くお断りする。
隣で商売する私にも、間の路地で酔っ払いが吐いたあとを
「お前のとこの客が吐いたんだろうが!」
と、怒鳴り込んできたこともあった。

お客様の評価も二分するのだが、根強い顧客は多い。

夕方からの営業だが、11時頃には出勤、仕込みに入る。
毎日のパターンが出来上がっている。
その鳥せんもコロナ禍で苦しんでいた。宴会は少なくなり、二階の宴会場はほぼ使うことなく2年が過ぎた。

今年春先から、親父の背中の曲がりが目につく様になった。腰を痛めているそうだ。普通でさえ笑顔の少なかった親父に、苦しそうな表情が増えてきた。

9月。
日付を添えた「お休みします」の張り紙が張り出される。
その日付が、延長延長で書き換えられた。
時折お店にくる奥さんから、親父さんが
「腰の痛みがすごくて立っていられない。」
という。
閉店という決断は、相当悩んだと思う。
ここにも「歳月」という流れに抗うか、流れに身を任せるか・・。

そして今日、張り紙が
「閉店します。長い間ありがとうございます。」
簡潔な文章の張り紙が出されていた。

お疲れ様でした。