昭和の残党

ランチに少し太めの男のお客様がいる。
推定50歳半ば。
お腹がけっこう出っ張っているお客様。
(たぶん、この人も糖尿病か、血糖値は高めなんだろうな・・・・)
とおぼしきお客様だ。
ツータック、スリータックの少し緩めのズボン姿。
ワイシャツなので、近隣の会社員と見える。

いつも一人で来店、ゆっくりとしたランチタイムを過ごされる。
注文は常に大盛りだ。そしてサービスでお出ししているお茶も、常にピッチャーをいっしょにお出ししている。

このお客様は、食事が終わりレジで精算される時に必ずされる癖がある。
ペロッと人差し指、親指をなめ、その指で財布からお札を出されるのだ。

おりしも新型コロナウィルス第八波が拡大中。
うーん、何だかな・・・。
昭和の頃には珍しくなかった光景なのだが、コロナ禍の時期には、
(もうちょっと気を遣ってくれると嬉しいな・・・・)
と思うが、当然口には出さない。
ただこの方の出したお札は隔離する。
コロナウイルスは弱体化しており、普通の風邪と大差ないと私は考えているのだが、釣り銭として他のお客様に出したくないのだ。

隔離。お札の隔離。
大事に別な封筒に入れ隔離。
これはこのまま毎日行く銀行へ預金する。
昭和の残党として封印、そのまま銀行という檻の中に入って貰う。
指なめとともに、昭和がここでもまたひとつなくなろうとしている。