ナフタリン

部屋の模様替えをした。

いつの頃からだろう。妻と自宅内別居が続いている。きっと10年じゃきかない。
仲が悪いわけではない。むしろ普通の夫婦よりも仲良い自負がある。
休みが合うときなど一緒に散歩、食事、飲みに行くこと多々。妻もいそいそとついてくる。

一緒に寝ていると、寝付きが悪いときやトイレ小用などで寝床を離れるときがよくあった。私も家内もけっこう目ざとい。少しの物音や肌のふれあいで目が覚める。
相手を気遣い、いつの頃からか別部屋で寝るようになった。これがお互いにけっこう楽なのだ。疲れているときなど隣の部屋から時折妻のいびきが聞こえたりするときがある。きっと心置きなく鼾をかいているのだろう。
たまに
「一緒に寝よか?」
「腕枕する?」
などと甘い言葉をかけることがある。性の営みなどとっくにない。けど、妻を意識している言葉は時々投げかける。
でも、
「けっこう。」
「ううん。」
といつも素っ気ない返事が妻からもどってくる。妻もいつしか独り寝が楽になっているのだろう。

お店をたたみ、お店の残留物がけっこう自宅にもどった。私の部屋は倉庫状態。
荷物の中に布団を敷いて寝る。
商店会の総会があり、その準備で追われた。総会挨拶。決算書。時期実行案などなど・・・。パソコンを開く機会が多くなり、印刷物もけっこうあった。執行部や関係者と会う機会も多くなり、スケジュール管理も過密になる。
書類がまとまれば、ホッチキス・・・あれ、どこ?
クリアファイルは?
あ、プリンタインクが切れた、カートリッジは?
整理がつかない・・・・・。部屋の荷物に紛れて、必要書類などがどこに行ったのか、気がつけば部屋の中を右往左往している。

総会が終わり、一息つけたある日、妻のパートもお休み。
「おい、机が欲しい。」
机は妻の部屋に鎮座し、これまでの会社勤怠表だとか、請求書、これまで数十年分の決算書、確定申告書などが机の上に並べてある。妻用のパソコンも書類のなかで肩身を狭そうに置いてある。ただいつもは食事用テーブルの上で妻の仕事は進む。テレビドラマを見ながらの「ながら運転」
妻にとって机は必須でなかった。

一念発起。机を私の部屋に運び入れる。
夫婦二人で机を持ち上げ移動する。机は部屋と部屋をつなぐ廊下で縦になったり横になったり斜めになったり・・・。
部屋は段ボールに入ったお店の残滓物でいっぱい。段ボールを入れ替えながら机を移動する。
箱を移動するたびに空いたスペースの埃を払う。掃除機をかけ湿った布巾で埃をぬぐう繰り返し。

4時間ほどの奮闘。移動と大まかな整理は終わった。
お互いに疲れ、
「そろそろ終わろうか。」「残りは明日。」

私の部屋に机が収まった。その机上にはパソコンが鎮座する。パソコンの上にはプリンター。部屋が真新しくなった気がした。
入れ替えした際に押し入れの衣服を仕舞っていたラックも入れ替えた。そのラックからナフタリンの香りが部屋に立ちこめる。ナフタリン香が部屋の新鮮さを際立たせていた。